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AIAサンフランシスコ大会とAIAの継続教育制度




 

 サンフランシスコを訪れるのは、1989年にNCARBの試験の滑り止めとして、カリフォルニア州が単独で行なっていたCARE(カリフォルニア州建築家登録試験)最後の試験を市庁舎のあるシビックセンターで受験して以来である。

  今回は大会開始の数日前にサンフランシスコ入りして、南のモントレー/カーメルからハイウエイ1号線を北上し、バークレイからサンパブロ・ベイを廻ってマリン・カウンティヘとベイエリアを一巡するドライブを楽しんだ。この時期なら乾燥した空気の中に青い空と赤茶けた景観が見られると期待していたが、今年はエルニーニョ現象の影響による異常気象のせいか、途中で大雨に降られたりしながらの緑あふれるカリフォルニアのドライブであった。

 

「馬車道マルシェ」人力車や馬車に試乗できる。 現在の馬車道(旧横浜正金銀行/現神奈川県立歴史博物館前)


■大会の模様と基本テーマ


 AIAアメリカ建築家協会の第120回大会は、5月21日から23日にかけてサンフランシスコのGeorge Moscone Convention Centerにて開催された。今大会はアメリカ経済の好景気に支えられ、またAIA/CES(継続教育システム)の本格的導入が始まったこともあり、AIA会員を中心に過去最高記録の1万9000人を越える出席者があった。

 AIA(American Institute of Architects)は1857年に創設された建築家の職能団体で、その構成員は原則として合衆国においてライセンスを受けた建築家個人となっている。協会の会員数は、第二次大戦終了時までは5000人ほどを数えるのみであったが、戦後急速に拡大して現在は約6万2000人までになっている。

 今大会は、橋の町サンフランシスコに因んで「橋を架ける」というスローガンの下、建築という職能と社会との間に橋を架け、そして関わりを強化するという目標を掲げ、レスター・ソロウ氏など建築以外の各界の著名人を招き「Education」「Leadership」「Global Vision」「Sustainable Values」という四つの基調テーマに沿った講演が行なわれた。また、Proposition224(カリフォルニア州においてすべての公共建築物の設計を民間に委託せずに、州政府の技術職員組合が行なうとする法案)への反対キャンペーンや、TV全国放送において広告を流すために会員から毎年50ドルを徴収するための規約改定など、積極的な協会の姿勢が印象的な大会であった。

 大会会場に併設してExpo98が開催され、8360m2の展示会場は450以上の出展者の展示で埋め尽くされた。Expo参加企業の出展料も大会の運営に大いに貢献しているというが、Expo自体は大盛況で次回のダラス会場の出展スペースもすでに80%が予約済みという。これはCESの導入効果ともいえ、実際CESのプロバイダーとして登録した企業のブースにはカードリーダーが設置され、所定の製品説明等を聞くと0.25時間分の単位としてポイントに加算していくことが出来るシステムとなっていた。

 アメリカでも登録建築家でありながらAIAの非会員である建築家は相当数存在すると見られているが、AIA/CESの導入により入会する建築家の数は相当数に上ると思われる。今年度はAIA会員資格の特典として初めて大会参加費が無料となり、非会員に課されるAIA/CESの参加料425ドルが免除されることもあって、大会会場の即日入会受付窓口には入会手続きをする人の列ができていた。

「馬車道マルシェ」人力車や馬車に試乗できる。 現在の馬車道(旧横浜正金銀行/現神奈川県立歴史博物館前)


■アメリカ建築家登録制度とAIA/CESについて

 AIAにおいては近年様々な改革、会員サービスの改善が行なわれているが、そのいくつかはアメリカの建築家登録制度の改革と結びついている。建築家登録試験は1997年2月から本格的にコンピューターを使用した試験方法が導入され、ARE受験者は年間を通じて日曜以外の好きな日に、全国に広く設けられた任意の試験センターにおいて、受験登録した州の試験を受けられるようになった。これは,より一層の機会均等と受験者の負担軽減を目指した制度であるが、設計製図の試験もCAD化されるなど試験方法は大きく変わった(私が受験した1989年当時は、試験は年に一度、受験する州の指定会場で平日4日間にわたって行なわれていた)。それと同時にあげられるのが継続教育の義務化である。アメリカにおいては、各州の建築家ライセンスは定期的に登録更新料を納めて更新する制度となっているが、更新の条件としてMCE(義務継続教育)を要求する動きが多くの州に広がりつつある。そもそも建築家はその職能を全うするため、生涯にわたって自己研鑽を積み重ね、最新の知識と技術を習得していくのは当然のことであるが、アメリカの場合はそれを公な形で記録し証明することが求められたわけである。

 AIAもこの動きに対応して、AIAの継続教育制度としてAIA/CESを1995年に発足し、1998年から毎年36学習単位の取得を会員に義務付けることになった。CESプロバイダーとしては、NCARBを初めとする各種団体から建設関連企業まで、実に多くの組織が参加を表明しており、AIA/CESの指針に沿ったプログラムが広範囲な分野にわたって提供されている。これは企業にとっては自社の製品やサービスをPRする機会でもあり、広く建設関連産業や建築業界を巻き込んだ新しい情報伝達の仕組みが構築されつつあるようだ。AIAの機関誌となったArchitectural Record誌やAIAのWeb-Site(www.aiaonline.com)からインターネットを利用した参加も可能となっている。

 大会におけるCES関連のセミナーは、大きく一般的な内容とHSW(Health, Safety, and Welfare)関連の2種類に分けられ、また参加度のレベルにより3段階に区分されている。HSWとは、公共の健康、安全、福祉のことで、それらを守ることが登録業務自体の目的であるというNCARBの基本方針を反映している。

 AIA会員は、年間に取得が要求される36単位の内、少なくとも8単位はHSW関連の単位取得が求められている。1単位というのは実際に自己研修を行なった時間数で、さらに参加度のレベルにより最大3倍まで加算される仕組みになっている。すなわち、クオリティーレベルが3である参加度の高いセミナーに参加した場合は、12時間の参加時間で36単位の取得が可能なわけである。私は、大会の前日に行なわれたプレ・コンベンション・セミナーにおいて、「実践におけるISO90001生産性改善の技術」という1日ワークショップを受講したが、教室内でのグループ・ミーティングに比重を置き、各自の問題点の自覚と種々の具体的なケース・スタディを通して改善策について話し合うという進行であった。内容はISO9000の紹介・取得というより運用面に比重が置かれており、システム思考の有効性なども紹介された。このセミナーはクオリティー・レベルが3となっており、7.5時間の受講時間で22.5単位を取得できたわけである。ちなみに講義を単に聴講するタイプのセミナーは受動的な学習としてクオリティー・レベルは1となっている。

 AIA/CESの取得単位は各州政府にレポートされると同時にオクラホマ大学に保管・管理され、各会員はインターネット経由で自分の記録を随時参照することができるようになっている。

 

「馬車道マルシェ」人力車や馬車に試乗できる。 現在の馬車道(旧横浜正金銀行/現神奈川県立歴史博物館前)


■参加したセミナーと各種ツアーについて


 大会前日のプレ・コンベンション・セミナーにおいては26のワークショップが、また会期期間中には125のセミナーが開催されたが、私は「本年度AIA受賞作品の紹介と講評」、「AIA25年賞受賞作品の講評」、「デザインに於ける各種技術の活用」、「建築への装飾ガラスの今日的適用」、「海外における設計活動と建設技術」という内容のセミナーを受講した。

 AIA25年賞はルイ・カーンのキンベル美術館に贈られた。13年前に初めてテキサスに降り立った翌日訪れた時の、その清廉な光の空間から受けた印象が忘れられない。後に4年近くをカーンの最後の作品であるプリティッシュ・アートセンターを隣に見ながら過ごしたが、より柔らかな光に満ちた空間で心の休息を味わったものである。「デザインにおける各種技術の活用」で、Cesar Pelli & Associatesの元同僚のプレゼンテーションがあり、最近特にコンピューター技術が事務所の設計手法にどのような効果をもたらしているかが紹介されて興味深かった。

 大会期間中には56コースのツアーがベイエリアのAIA各支部の協力により企画運営され、私も「シリコン・グラフィックス社の新社屋」、「スタンフォード大学」、「PG&Eエネルギー・センター」、「サンフランシスコ国際空港新ターミナルビル建設現場」の各ツアーに参加した。各ツアーには施主側担当者や設計者のプレゼンテーションの他,バインダーに綴じられた資料や質疑が用意され、CESの単位も取得できる充実した内容であった。

 シリコン・グラフィックス社の新社屋は、特徴の少ないシリコン・バレーの中に都会的な感覚の環境を生み出している。キャンパスと呼ばれる中庭を囲んだ低層の建築群は、学校出たての若い頭脳が快適に研究開発に専念できるよう、大学キャンパスのような雰囲気を演出している。大会初日のゼネラル・セッションにおいてOwens Corning社のCEOであるGlen H. Hiner氏がワーク・プレイスにおけるデザイン・クオリティについて、シーザー・ペリ設計の新本社ビルの場合を紹介したが、八イライズ・ビルディングという形式よりも低層の建物の持つメリットが語られたのを思い出した。そこでは、役員階が独立して建物の最上階にあるのではなく、建物の要となるアクセスしやすい中心的位置に設けられている。

 スタンフォード大学のツアーでは、初めにPaul Turner教授からスタンフォード大学のキャンパス・プランニングの歴史の講義を受け、また大学の専任建築家であるDavid Neuman氏からはキャンパス計画の課題についての講義を受けた。それに続くキャンパス・ツアーでは新しく竣工した科学・工学系教育センター(Pei Cobb Freed & Partners)において物理学系の教授から最新の教室設備を披露してもらった。またツアーの中で興味深かったのは、1989年のLoma Prieta大地震の被害を受けた歴史的建造物群のレトロ・フィッティング(免震修復工事)や身障者対応のための改築工事の実際であった。

 PG&Eエネルギー・センターは電力を中心とした省エネの展示場/研究施設で、グリーン・アーキテクチャーの展示と「経済的に実行可能な環境に配慮したデザイン・ガイドライン」のワークショップが開かれ、ツアーにおいては化石燃料の価格高騰に備えて、いかに省エネデザインを推進することが重要なことかが熱く語られた。

 現在建設中のサンフランシスコ国際空港新ターミナルビルのツアーは、途中で恒例の仮装マラソン大会(ベイ・トゥ・ブレイカーズ)のための交通規制により思わぬ市内一周バスツアーが楽しめたが、空港現場事務所では大規模公共工事において、大手組織事務所と小規模アトリエ事務所の共同体制をいかに組織運営したかなどの話が聞けた。

 今大会ではCESを58単位取得すると同時に、Yerba Buena Gardensを中心とする大会会場周辺の豊富な建築資産を見たり、また大学の同窓会で恩師や級友に会うなど、年に一度の大会の意義と役割を改めて実感することが出来た。次回のAIA大会はダラスにおいて、そして2000年の大会はアメリカ建国の都フィラデルフィアにおいて開催される。


      <米澤正己、AIA,RIBA,JIA会員、(株)パシフィック・デザイン・システムズ主宰>

 




  この原稿は、JIA日本建築家協会関東甲信越支部「Bulletin1998年10月15日号」に「海外リポート・AIAサンフランシスコ大会/年36単位取得を会員に義務付け−AlAの継続教育制度」として掲載されたものです。